「まるで熟れたさくらんぼ色ね」
「何ですか、その微妙な例えは」
僕は隣に座って夕空を眺めている先輩の、奇妙な例えに思わず反応してしまった。
「だって、そう思わない?
この絶妙な太陽の色合い!太陽の周りは少し黄色いのに、空は真っ赤。
まるでもぎたての大きなさくらんぼが空一面に浮かんでいるみたい。
ああ、とっても美味しそうね。お腹が減ってきちゃうわ。
何か持ってない?」
どこまで自由なんだ、この人は。
「何もありませんし、もうすぐ夕飯の時間になります。
太りますよ」
「あら、ひっどぉーい!
女の子にそれは禁句よ」
「そう思うのなら、言わせないで下さいよ」
「だって、空が美味しそうな色をしているのが悪いのよ」
「空は普通です。
先輩の目がおかしいんですよ」
「もうっ。そんな失礼なことばかり言って!
怒ったわ。先に帰ってやる!」
先輩は宣言をして鞄を掴み、教室を出ていった。
僕も続いて廊下にでる。
さくらんぼ色の光にみたされた廊下の、少し先を行く先輩の背中でピョコピョコ揺れる三つ編みが、何だかとてもおもしろかった。
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